国内の高級ロッドには、8万円や10万円を超える物があります。
高弾性カーボン、軽量ガイド、特殊なリールシートなど、高価な素材や部品が使われているのは分かります。しかし、10万円のロッドに10万円分の素材が使われている訳ではありません。
では、国内高級ロッドの価格には何が乗っているのでしょうか。
中華ロッドから素材の価格を考える
以前、「中華ロッドはなぜあんなに安いのか?」という記事を書きました。

5000円前後の中華ロッドにも、ブランクス、ガイド、リールシート、グリップが付いています。塗装され、組み立てられ、日本まで送られてきた完成品が5000円です。
もちろん、国内高級ロッドと同じ品質ではありません。中華ロッドには薄巻きブランクスによる強度不足や、品質のばらつきがあります。
それでも、パーツ単位で見ると意外と良い物が使われている場合があります。高弾性カーボンと表記されたブランクスや、普通に使えるガイド、リールシートが付いたロッドを5000円前後で販売できています。
ここから分かるのは、高級ロッドのメーカー原価ではありません。
ロッドを構成する素材自体は、完成品の販売価格ほど高くないという事です。
5000円の中華ロッドと10万円の国内高級ロッドには20倍の価格差があります。この差をカーボンやガイドだけで説明するのは無理があります。
高級ロッドでは、素材以外の物に大きな金額を払っています。
プロデュースしたプロはロッドを作っているのか
国内高級ロッドには、有名プロが開発やプロデュースに関わった物が多くあります。
ただ、そのプロがカーボンの積層、マンドレル、肉厚、テーパー、焼成条件まで設計しているのでしょうか。
実際にそれをロッドへ落とし込むのは、メーカーの設計者や製造担当者です。
プロは欲しいロッドの方向性を伝え、試作品を使います。そして、ティップをもう少し入れたい、キャスト後のブレを減らしたい、魚を掛けた後はもっと曲がってほしい、といった評価を返します。
つまり、プロ自身がロッドを作っている訳ではありません。
ここだけを見ると、プロは技術者が作ったロッドを評価しているだけにも見えます。
しかし、プロが自分でロッドを製造できるかは、それほど重要ではありません。重要なのは、技術者が再現できるほど明確に、欲しいロッドを伝えられるかです。
問題は、すべてのプロが明確なロッドの完成像を持っているのかという点です。
プロには二つのタイプがある
高級ロッドの販売で前面に出されるプロには、大きく分けて二つのタイプがあります。
一つは競技プロです。
バストーナメントで優勝したり、年間成績で上位に入ったりすると、一気に注目されます。実績を出した選手がメーカーと契約し、新しいロッドの開発に参加する事もあります。
競技で勝った事自体は高く評価されるべきです。
例えば藤田京弥は、世界最高峰の競技で結果を残した事自体に大きな商品価値があります。ここで問題にしているのは藤田京弥個人の知識ではなく、競技実績とロッド設計の知識は別に評価する必要があるという事です。
一方で、短期間で結果を出して注目されたプロが、すぐにロッドを売るための看板として使われる場合もあります。
大会で魚を釣る能力と、ロッドの構造を理解する能力は同じではありません。現在のトーナメントで勝った事は、過去から現在までのブランクス、素材、テーパーの変化を理解している証明にはなりません。
競技プロが求めるロッドも、試合で結果を出す方向へ寄りやすくなります。軽さ、感度、操作性、フッキング性能など、短時間で魚を見つけて確実に取るためのロッドです。
もう一つがメディアプロです。
メディアプロにも色々なタイプがいますが、何十年もメディアに出続け、一定数のファンが付いているプロには、その人なりの釣りの考え方があります。
村上晴彦や田辺哲男が、その代表です。
田辺哲男のロードランナーには、ハードベイトロッドはキャストが重要という明確な考えがあります。ノリーズも、ハードベイトスペシャルをキャスト精度やルアーを通すコースから設計したシリーズとして説明しています。
ロードランナーLTTの解説を見ると、単なる硬さや軽さではなく、各モデルをどのような釣りに使うのかが明確になっています。
村上晴彦にも、一般的なレーシングロッドとは異なる考えがあります。
村上晴彦本人によるハートランドの解説を見ると、数値では説明しにくいロッドの調子や使用感を繰り返し説明しています。
長く支持されるメディアプロの場合、購入者が買っているのは直近の大会成績ではありません。その人が長年続けてきた釣り方や、釣りに対する考え方です。
競技プロの名前には、現在の強さやトーナメントでの実績が乗ります。
メディアプロの名前には、長年作ってきた釣りの思想が乗ります。
同じプロデュースロッドでも、価格に乗っている物は違います。
「村上信者」が買うハートランド
ハートランドを買い続ける人は、よく「村上信者」と呼ばれます。
村上晴彦が使っているから買う。村上晴彦の名前が付いていれば、高いロッドでも買う。
外から見ると、そのように見えるのだと思います。
しかし、ハートランドには明確な芯があります。
それが、釣りの気持ちよさです。
軽さや感度だけではありません。キャストした時の感触、ルアーを操作する時の感触、魚を掛けた後にロッドが曲がる感触まで含めて、釣りを気持ちよくする事を目指しています。
ダイワもハートランドを、細身肉厚のブランクスや淀みのないベンディングカーブを持つ「村上調子」として説明しています。リベラリストでも、魚を掛けてロッドの曲がりを楽しむ事が商品説明の中に入っています。
魚を最短時間で掛け、効率よく取り込むためのレーシングロッドとは、目指している場所が違います。
村上晴彦がカーボンの積層や焼成条件を直接設計している訳ではないと思います。それでも、どのようなロッドなら釣りが気持ちよくなるのかという完成像を持っています。
ダイワの技術者が、その感覚をブランクス、テーパー、ガイド設定へ落とし込む。村上晴彦は試作品を使い、自分の求める感触になっているかを判断する。
これなら、本人がロッドを製造できなくても、プロデュースする意味があります。
村上信者ではなく、釣りの気持ちよさを選ぶアングラー
ここまで考えると、ハートランドの購入者を村上信者だけで片付けるのは違うように思います。
購入者は、村上晴彦という人物だけを買っている訳ではありません。
ハートランドが持つ、釣りは効率や釣果だけではないという考え方に共感して買っています。
魚を多く釣る事に楽しさを感じる人もいれば、ルアーや道具を試す事に楽しさを感じる人もいます。キャストする行為やロッドの曲がり、魚とのやり取りそのものを楽しむ人もいます。
同じ釣り人でも、何に楽しさを感じるかは違います。
外から「村上信者」と呼ばれている人は、別の見方をすれば、釣りの気持ちよさを優先するアングラーです。
村上晴彦のファンだから買うという面はあっても、それだけではありません。自分が求める釣りの楽しさを、村上晴彦が明確な形で表現しているから買う。
長くシリーズを買い続ける人がいるのも、単なるブランド信仰だけでは説明できません。
軽さと感度だけなら中華ロッドでも作れる
一方、国内高級ロッドには、軽さと感度を強く押し出した物もあります。
高弾性カーボンを使い、ブランクスを薄くし、軽量ガイドを載せ、グリップを小さくすれば、軽くて張りの強いロッドは作れます。
この方向は、中華ロッドでも既にある程度実現できています。
↓5000円の中華ロッドのスペック

もちろん、軽ければ国内高級ロッドと同じという話ではありません。
中華ロッドは薄巻きによって軽くしている場合があり、強度や耐久性に不安があります。ブランクスの復元力、トルク、設計の完成度、品質の均一性にも差があります。
それでも、「軽い」「高感度」「高弾性素材を使用」という説明だけでは、10万円の価格を支えにくくなっています。
素材名や重量は、中華メーカーでも追いかけられるからです。
軽さや感度を極限まで高める事に明確な目的があり、競技で勝つために必要なら、それも一つの芯です。
しかし、単に軽さと感度だけを高級ロッドの価値として並べても、安いロッドとの差は今後さらに小さくなります。
高級ロッドには、安いロッドでは代替できない明確な芯が必要です。
ハートランドにとって、それが釣りの気持ちよさです。
プロの理想と自分の楽しみ方は同じなのか
競技プロが求める最高のロッドが、一般の釣り人にとっても最高とは限りません。
プロは限られた時間で魚を探し、正確にルアーを操作し、掛けた魚を確実に取る必要があります。
しかし、一般の釣り人全員が大会へ出る訳ではありません。
魚を探す過程が好きな人、色々な道具を試したい人、キャストや魚とのやり取りが好きな人、ロッドの見た目や所有感を重視する人もいます。
何に楽しさを感じるかによって、必要なロッドは変わります。
高級ロッドを選ぶ時は、そのプロが大会でどれだけ強いかだけでなく、そのプロが何を楽しいと感じているかを見る必要があります。
その楽しみ方が自分と同じなら、プロデュースロッドを買う意味があります。
違うなら、いくら高性能でも自分に合うロッドとは限りません。
自分が釣りの何に楽しさを感じるかは、以前作成した「釣り人スタイル診断」でも確認できます。

国内高級ロッドと少量生産
国内高級ロッドは、価格が上がるほど購入できる人が少なくなります。
販売数が少なければ、開発費、試作費、金型、在庫、保証などを少ない本数で回収しなければなりません。
少量生産だから高くなる。
高いから少量しか売れない。
この二つが循環し、超ハイエンド価格になります。
さらに、最上位ロッドにはメーカーやシリーズの象徴という役割があります。多く売るためのロッドではなく、そのメーカーが何を作りたいのか、どこまで作れるのかを見せるロッドです。
そこには素材や性能だけでなく、希少性、所有感、プロの名前、シリーズの物語も乗っています。
しかし、希少性だけで長期間支持される事はありません。
ハートランドやロードランナーが長く続いているのは、価格やプロの名前だけではなく、シリーズに一貫した考え方があるからだと思います。
高級ロッドで何を買っているのか
国内高級ロッドの価格には、素材だけでなく、設計、試作、品質管理、少量生産、ブランド、プロの名前が乗っています。さらに優れたプロデュースロッドには、そのプロが考える釣りの理想も乗っています。
ハートランドを選ぶ人は、単なる村上信者ではありません。釣りの気持ちよさを優先するという、自分の価値観に合うロッドを選んでいます。
高級ロッドを選ぶ時に見るべきなのは、価格や素材、プロの大会実績だけではありません。そのロッドが目指す釣りと、自分が楽しいと感じる釣りが一致しているかです。

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